癒されないエステ

 マネ活を始めてから行かなくなったが、以前はよくエステに行っていた。初回は特典が付き、安く受けられるところも多く、流れ者のようにあっちのエステ、こっちのエステとふらふら渡り歩いていた。


 その日も初めて行く店舗だった。予約内容はフェイシャルで超音波の照射とパックのセットだ。
予約時間の少し前に店に到着し、期待と緊張が入り混じるなか店内の扉を開けた。
 30歳前半くらいだろうか、受付にいた色白の清潔感のある女性が「お待ちしておりました」と笑顔で出迎えてくれた。
 すると少し遅れて奥の部屋から店長と思わしき女性が現れた。満面の笑みを浮かべるその女性の迫力に思わずたじろいだ。たっぷりと肉付きの良い豊満なボディもさることながら、顔面の不自然オーラが半端じゃなかった。ヒアルロン酸を限界量注入しているのだろうか。額と顎は張り裂けそうなほどパンパンで艶を放ち、オバキューのような肉厚な唇は、グロスで妖艶な光沢を放っていた。目を閉じてもしばらく残像が残りそうなインパクトだ。帰宅してから気付いたのだが、ウルトラマンに出て来る「ピグモン」に似ていた。
 待合室のソファに店長らしき女性と向かい合わせで座り、施術の説明を受ける。名札を見るとやはり店長と書いてあった。
「うちの炭酸ガスパックをしていれば、肌が活性化して若々しさを保てますよ!ほら、私の肌もこれのおかげなのよ」
まるで、ケーキのつまみ食いなんて絶対してないよ!と口に生クリームをつけながら言うくらいの見え透いた発言に、どの口が言う?と問いたい気持ちでいっぱいなった。
あらためて至近距離で見る彼女の迫力に押されながらも「今日はお願いします」とか細い声で伝え、個室に案内された。

 圧倒的な見た目ではあったが、接客業なだけあってピグモンは会話上手であった。滞りのない会話をしながら無事施術を終え、あとは炭酸ガスパックを残すのみだ。照射のあとの火照った皮膚にひんやりマスクが気持ちいい。
「このまま15分ほど時間をおきますね」
そう言い残すとピグモンは部屋を出て行った。
 こんな時、仮眠でも取れればいいのだが、自分の枕じゃないと眠れないという、無駄に神経質な私は眠ることも出来ずひたすら時間が経つのを待った。
しかし待てど暮らせど戸を開ける音が聞こえない。
腕時計をつけていないので時間の確認も出来ず、すべて個室なのでどの部屋に従業員がいるか分からない。私はなす術もなく、聞き耳を立てながらただ待つだけであった。感覚的に30分以上はゆうに超えていたと思う。触ると顔のパックの水分も、乾き始めて来ているようだ。
 もしかしたら私の存在を忘れ、タイムカードを押して全員退社して飲みに行ってしまったのでは…不安がピークに達した頃、おもむろにドアが開いた。
 「お時間なのでパックをはずしますね~」
いやいやお時間なので…じゃなく、どう考えても忘れてたよね⁈
「ちょうど今、パックをはずす時間だったので来ました」という空気をかもし出すのは違うんじゃないか?と思ったが「忘れてました?」と問い詰められない弱気な自分。自己嫌悪と疲労感を抱えながら帰宅したのだった。

 違うエステ店で。こちらも初めて行った店だった。フェイスエステが初回1000円で受けられるコースがあり、うまい話にすぐ飛びつく私は、その記事を見た瞬間に予約していた。
開店して間もないお店で、店内のロビーは白を基調とした内装と家具で統一され、明るくきれいだった。店内にいた何人かの従業員はみな一様に若く20代に見えた。
 周りを見渡すと、広い一つのロビーにベットを並べ、間仕切りカーテンで区切り行うシステムらしい。
「個室じゃないのか…」
視界に映りこそしないが、横で施術を行っているため、となりの気配も声も至近距離で感じられた。
こういうスタイルは初めてだったが、予約時にそこまでチェックしなかった自分も悪い。まあ見えるわけじゃないからいいかと気を取り直し、施術が始まった。
 私を担当する女性は20代後半くらいだろうか…娘ほど歳の離れた女性との共通の話題も思い浮かばず、ひたすら無言でマッサージを受けていた。自然と隣のスタッフと常連客らしき人の会話が聞こえてくる。
しゃべり口調や声質から、客も店員も、20代くらいと思われる。


客「最近さ~誕生日来るのが恐怖!」
スタッフ「10代が懐かしいですよね」
客「マジでこれ以上歳取りたくないよね~」
スタッフ「母親みたいになりたくないですよね」
客「分かる!あんなおばさんになりたくない」

無邪気な声で話す、、罪深き2人の会話が店内に響き渡る。
 いないと思って悪口を言ってるけど、全部聞こえてますよ、というシチュエーションと同じ、なんとも気まずい空気が漂った。どうして言われた方が息を潜めなければならないのか。まるで母親世代の私が言われているようで(被害妄想?)肩身の狭い思いをしたのである。
 あらゆる年代に対応する美容の現場で働くなら、スタッフも気を配った方が良いのでは…?といつものように心で愚痴る小心者の私であった。
 エステは癒しの場で、非日常の贅沢を味わえる素晴らしい空間…ばかりではなく、中には行く前より気持ちが重くなるパターンもあるということを知った。

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