私の隣の大阪人

 スナックで知り合った大阪人がいる。
私のごくわずかな…いや見栄をはった。唯一仲の良い人物だ。
 生まれも育ちも北海道の私にとって、関西弁はテレビで耳にするくらいであった。
 実際に接してみると、流暢で軽快な関西弁は耳に心地良く非常に好感が持てた。もともとお笑い大好き人間なので、いつもはテレビで見る芸能人を初めて生で見るみたいな感覚があった。余談だが私が今まで生で偶然見かけた芸能人は、桜金造と照英だけである。

 よく関西人はケチだというがはたして本当にそうなのか…
私の隣の大阪人は正確にはケチというより、儲けるのが大好きと言うのが正しいだろう。
 私たちが夜一緒に食事しようと約束した時は、めったに外食しない。主にスーパーで割引になっている総菜を買いに行くのだ。
 土曜日の午後6時半、待ち合わせをしスーパーに出陣だ。
入り口に入るとわき目も降らず一直線で鮮魚コーナーへ向かう。ふと周りを見れば、同じ割引狙いであろうスーツ姿のサラリーマンや主婦らも、目的は一つと言わんばかりに総菜売り場へ急いでいる。
 売り場に近づくと幸運の黄色い値引きシールが目に付く。はたして10か…20か…張り詰める緊張感の中、近づいてみると30%引きである。最初の頃は「やった!30%引き!ラッキー」と飛びついた私の腕を掴み「まだや…もう少し待つんや」と言わんばかりに彼は無言で首を振った。まるで張り込み中に犯人を捕まえようとする私を、まだ早いと引き留める刑事のようなシリアス顔である。
「そ、そうなの?」と戸惑いながら、用もないのに売り場をパトロールして時間をつぶす。パトロールをしながらも常に鮮魚品売り場に動きがないか、神経を研ぎ澄まして目を光らせる。はたから見ると、新入りの万引きGメンくらいに見えているかもしれない。
 やがて厨房から白衣のおじさんが出て来るのを確認すると、背後霊か満員電車のチカン並みの至近距離でピタリと後ろに張り付き、50%のシールが貼られた瞬間を狙い手を伸ばす。私たちの他の背後霊も続々と後に続き、半額食品はあっという間になくなった。そういう買い方が慣れてしまった今では、30%割引くらいでは動じなくなったし、逆に高く感じるようになってしまった。
 しかも最近では彼とスーパーへ行くと、かなりの高確率で半額商品に当たるようになった。時間の見極めも上手くなったようだ。入店すると麻薬を探す警察犬のように、はたまたトリュフを探すブタのように半額商品を探す彼の背中をひたすらついて歩く私であった。

 またお金がないわけじゃないのに、彼は必要最低限な物しか買わないし徹底的にだめになった時しか物を買い替えない。ドライヤーの取っ手部分が壊れても温風はまだ出ると言い、取っ手に布テープを貼って使用している。私なら何の迷いもなく買ってしまうのに、物を大切にするという大阪人精神(彼だけなのか?)を日々学んでいる。
 部屋では、今では成人している子供たちのおさがりの家具に囲まれて生活している。20年以上は経っているであろうテレビラックや収納ケースは、どれも変色したり色あせたシールが貼ってあったり年季が入っている。綿がへたれ、弾力のかけらもない初代ミッキーマウスの座布団や、「たれぱんだ」の歯磨きコップなど、この家の日用品達は何十年もの時を過ごして来たんだろうと感慨深くなる。
 これだけ長く使っていると魂を宿してそうだ。ディズニーの美女と野獣のように、人間が寝静まった後、座布団やコップたちによるパーティーが夜な夜な開催されているかもしれないなと想像してしまうわたしであった。

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